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前橋家庭裁判所 平成元年(少)1734号 決定

少年 W・K(昭45.1.22生)

主文

少年を前橋保護観察所の保護観察に付する。

理由

(非行事実)

少年は、自動車運転の業務に従事するものであるが、平成元年6月10日午後6時30分ころ、普通乗用自動車を運転して、群馬県前橋市○△町×丁目×番地の×先交差点を、対面信号の青色表示に従い、同市○○町方面から同市××町方面に向けて右折進行しようとしたが、このような場合、自動車運転者としては、当時降雨のため路面が湿潤し、車輪が滑走しやすい状況であったのであるから、減速徐行することはもとより、ハンドル、ブレーキ等を確実に操作して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、自己の運転技能を過信して、これを怠り、減速徐行することなく、漫然と時速約45キロメートルで前記交差点に進入し、右折すべくハンドルを急激に切り込んだ過失により、自車後輪をスリップさせて自車を進行方向右斜め前に暴走させ、同交差点において、同市○○町方面に向けて信号待ちのために停車していたA運転の普通乗用自動車の右前部に自車右前部を衝突させ、よって、同人に全治10日間を要する頭頸部外傷の傷害を与えたものである。

(法令の適用)

刑法211条前段

(本件再送致について)

本件は、司法警察員作成の平成元年8月5日付送致書記載第一、一の道路交通法違反(酒気帯運転)の犯罪事実(以下「本件外事実」という。)とともに、平成元年8月10日、検察官から送致され(平成元年少第1383号)、その後、家庭裁判所調査官の調査を経たうえ、同年9月11日、本件外事実と併せて、刑事処分相当として、少年法20条により、検察官に送致したところ、同年10月6日、「送致後の状況により訴追を相当でないと思料する。」として、検察官から再送致されたものであり、その具体的理由として検察官が述べるところは、「被害者の傷害の程度につき、被害者は、事故約5日後に始めて診療を受けているものの、愁訴のみであり顕著な他覚所見もなく、終始電気治療にとどまる軽微なものであると認められる上、示談が成立しているなどの状況にある。」というものである。

しかしながら、本件記録に徴すると、前記事由は、いずれも、少年法45条5項但書にいう「送致後の状況」にあたらないものというべきであり(なお、本件の示談につき、示談書は、なるほど、同年9月24日付で作成されているものの、少年は、同年8月20日ころ、前記示談書が保険会社から送付されてきたため、同書類に署名・押印して返送しており、この時点において、少なくとも示談成立と同視しうる事情が存在し、しかも、同事情は、検察官送致の時点において、裁判所に既に判明していた事情であるから、示談成立という事由は、前記「送致後の状況」とまではいうことはできないものと考える。)、そうすると、本件再送致は、少年法45条5号但書に違反するもので、その手続きに瑕疵があるものというべきであるところ、検察官は、先に検察官送致をした本件外事実につき、検察官において更に捜査を遂げた結果、同事実については、公訴を提起するに足りる嫌疑がなく、また、少年法42条に定める嫌疑の存在はもとより、虞犯事由も認められないとの判断のもとに再送致せず、嫌疑の認められる本件のみを再送致したものであって、とすれば、検察官の本件再送致の真意は、同法45条5項但書にいう「送致を受けた事件の一部について公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑がない」という事由にあると解することもできると考える。

以上によれば、本件再送致は、かかる理由に基づくものとして適法であるということができる。

(少年の処遇について)

本件は、少年が飲酒しながら運転し、その際、先に認定した非行事実のとおり、人身事故を惹起したものであって、その態様は極めて悪質であり、しかも、少年には、それまでに、かつて加入していた暴走族とともに敢行した道路交通法違反(共同危険行為)(この非行については、昭和61年3月5日、特別講習受講のうえ不処分となっている。)、また、その後敢行した毒物劇物取締法違反(トルエン吸入)、道路交通法違反(自動二輪車の無免許運転)、道路運送車両法違反(ナンバー折り曲げ)占有離脱物横領(自動二輪車)の各非行(以上の非行については、同62年5月20日、保護観察処分となっている。ちなみに、同保護観察は、同63年5月20日解除となっている。)の各非行歴・処分歴があることに加え、少年の年齢等諸般の事情を総合すれば、本件による被害者の負傷程度は幸いにも軽度ではあったものの、少年を刑事処分に付して、その罪責を自覚させることも十分考えられるところであるが、本件につき、再度検察官送致をすることは穏当とはいえないうえ、少年は、本件について、反省の態度を示しており、前件以後、本件を除きみるべき非行はないので、今回は、交通非行性の矯正を主眼とした再度の保護観察によって、少年の規範意識を改めて覚醒させ、同種非行の防止を図ることも可能であると思料した。

よって、少年法24条1項1号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 河合裕行)

〔参考1〕検察官送致決定〈省略〉

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